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【第5章|夫の変化を感じた日】 「ありがとう」を言えるようになった夫を見て思ったこと

「ありがとう」「ごめんね」

たった二言。でもその言葉が、どうしても手に入らなかった。

結婚して7年。

私は、ずっとその二言を待ち続けてきた。

心が通わない感覚に疲れ果て、声をかけることすらやめた日々。

そしてようやく、彼の口からその言葉がこぼれた日――

嬉しさと、戸惑いと、もう素直に受け取れない自分の存在に、私は気づいてしまった。

目次

「思ってもないことは言えない」

夫は、私が「ありがとうって言ってもらえたら嬉しい」と伝えても、

「思ってもないことは言えない」と言い返した。

その言葉は、今でも胸に残っている。

私が“気持ちを受け取りたい”と思っていることさえ、

受け入れてもらえなかったような気がして。

私のしてきたことは、感謝に値しないものだったのだろうか。

ずっと心のどこかで、そんなふうに感じていた。

でも、ある日ぽつりと聞こえた一言。

会話を控えるようになって数カ月。

必要なことだけをやり取りするようになっていたある日、

夫が欲しそうにしていたものを、私は黙って手渡した。

そのときだった。

「…ありがとう。」

不器用で、ぎこちなくて、

こちらを見ようともしない小さな声。

でも、それはたしかに「ありがとう」だった。

思ったよりも心が動かなかった。

長年待ち続けた言葉だったはずなのに、

その瞬間、思ったよりも心が動かなかった自分がいた。

感動も、涙も、湧いてこなかった。

「あ、やっと言ったんだな」

そんな冷めた感情のほうが先にきてしまった。

あんなに欲しかった言葉なのに。

嬉しいはずなのに。

もしかしたら私は、

「ありがとう」が届く場所にもういないのかもしれない――

ふと、そんなことを思ってしまった。

時間は、想像以上に心を削る。

きっと、夫が「ありがとう」を言えるようになるまでに、

本人なりの葛藤や努力があったのだろう。

でも、私がその一言を聞くまでに、

私は想像以上に多くのものを失ってきた。

期待しては裏切られ、

願っては打ち砕かれて、

それでも信じたくて、信じ続けて、

やっと届いた言葉だった。

なのに――

それを素直に受け取れないほど、心がすり減ってしまっていた。

「ありがとう」が言えるようになった。それは確かに変化。

だからこそ、私は思う。

「ありがとう」が言えたことは、確かに変化だと。

夫の中にも、何かが少しずつ動いてきた証拠。

小さな一歩かもしれないけれど、その一歩がなければ、

きっと私は今も、ただの「役割」としてしか見られていなかった。

私はもう、前のようには戻れないかもしれない。

でも、少しだけ「遅れてきた変化」にも目を向けてみようと思う。

なぜなら、あの日の私は、

その一言をずっと、ずっと待っていたのだから。

「ありがとう」に救われる未来が、どこかにあることを願って。

言葉は、過去を帳消しにはしてくれない。

でも、未来の関係を少しずつ変えていくことはできると思っている。

だから今日も私は、ほんの少しだけ期待してみる。

もう一度、ちゃんと心が通じ合う日が来ることを。

そして今度こそ、

「ありがとう」が、ちゃんと心に届く日が来ることを。

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