MENU

【第9章|夫がカウンセリングを受け始めた日】「変わるかも」という希望と「変わらないかも」の不安

――「俺、カウンセリングに行ってみようと思う」――

その言葉を聞いたとき、私は一瞬、信じられない気持ちになった。

けれど同時に、「ようやくここまで来た」と、長く閉ざされていた扉が少し開いたような気もした。

目次

深く謝る夫の姿に、驚いた

初めてカウンセリングに行ったのちに、夫は自ら口を開いた。

これまでの自分の言動、私に対してしてきたことの一つひとつを振り返り、

「本当に申し訳なかった」と、はっきりと謝ってきた。

これまで、「悪いと思っていないのに謝れない」と頑なだった夫の口から、そんな言葉が出てくるとは思わなかった。

それだけで、私の心のどこかがふっと力を抜いたのを感じた。

さらに、「カウンセリングを通して、まずは自分と向き合ってみたい」と話してくれた。

それは、私が何年も待ち望んできた言葉でもあった。

自ら話し出した職場でのトラブル

夫は、その日のうちに自分の職場での出来事も話してくれた。

上司や同僚とうまくいかず、感情的にぶつかってしまうことがあったこと。

それを機に、他者との関係性の作り方に問題があると感じ始めたこと。

私に責任を押しつけるのではなく、

**「自分の中にも原因があるのかもしれない」**と、ようやく認め始めたように見えた。

そんな夫の姿に、私は「もしかしたら、少しずつ変われるのかもしれない」と、わずかに希望を抱いた。

でも、すぐにぶつかる“いつもの壁”

けれど、それで全てが変わるわけではなかった。

話し合いの中で、夫はすぐに“言い訳”を始めてしまう。

「それはそういうつもりじゃなかったんだ」

反省しているように見えたと思えば、すぐに過去の考えや言い分が持ち出される。

反省しているのか、自分を守りたいだけなのか――聞いている私には、わからなくなる瞬間が何度もあった。

「理解した」と言われても、置き去りにされた私の気持ち

ある日の会話で、夫はこう言った。

「うん、知花の気持ちはわかったよ。理解したつもりだよ」

その言葉を聞いたとき、私は少しだけ安心した。

ああ、ようやく伝わったのかもしれない、と。

けれど、その次の瞬間には、こう続けられた。

「でも俺は、あのときこう思ってたんだ」

「俺なりに、こういう意図があって言ったんだよ」

そう言われたとき、不思議と怒りよりも寂しさがこみ上げてきた。

私の話を「わかった」と言いながら、すぐに自分の考えに話を戻してしまう。

気づけば私は、また“説明される側”に戻っていた。

私が欲しかったのは、反論でも自己弁護でもなかった。

「そう感じたんだね」「辛かったね」と、ただそこに心を寄せてほしかっただけ。

なのに、また“正しさ”や“意図”の話にすり替えられて、

私の感情はそこに残されたまま、どこにも届かずに終わってしまった。

一番苦しかったのは、「理解した」と言われながら、

その直後に置き去りにされたと感じたことだった。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次