――「大丈夫じゃない」と言えなかった私へ――
また、夫の転勤だった。
家の中では会話もまばら。心はすれ違ったまま。
そんな中で、見知らぬ土地に移り住むことになった。
新しい土地、新しい環境。
慣れない道、知らない人たち。
また、すべてがリセットされた。
でも何より辛かったのは、
**「夫のことを話せる人が誰もいない」**ということだった。
弱音を吐く場所が、どこにもなかった
ちょっとした愚痴をこぼせるママ友もいない。
子育てのことを相談できる友人も、近くにはいない。
夫に「辛い」と言えば、否定されるか、無視されるのが目に見えていた。
そんな日々の中で、私は次第に追い詰められていった。
夫に言われたきつい言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
「私が悪いのかな」「私が弱いだけ?」
ぐるぐると思考が回って、止まらない。
夜になると、胸の奥に不安と孤独がじわじわと染み込んできた。
「この先、この人とずっと一緒にやっていけるのかな……」
その問いに、答えが出せないまま、眠れない夜を何度も繰り返した。
呼吸が苦しくて、涙が出る夜
ある夜、息が苦しくなった。
うまく呼吸ができない。喉が詰まったような感覚。
「これはもうだめかもしれない」と思うほど、体が言うことをきかなかった。
過呼吸だった。
涙も止まらなかった。
それでも、誰にも言えなかった。
言える場所が、なかった。
毎晩、眠れているのか眠れていないのかわからないまま朝を迎えて、
日中は頭がぼんやりして、ふらふらと立っているだけで精一杯だった。
久しぶりに会えた友達にも、まともに話せなかった。
「ごめん、ちょっと眠くて……今日は早く帰るね」
そう言って、本当のことは何ひとつ言えなかった。
「これはまずい」そう思って、また心療内科へ
引越し先では、まだ心療内科にはかかっていなかった。
でも、これはもう一人で抱えてはいけないと、ようやく思えた。
再び、診療所の扉を叩いた。
先生は、私の話を静かに聞いてくれた。
「眠れないんですね」と言われて最初に処方された薬が、デエビゴだった。
初めてそれを飲んだ夜、私はやっと眠ることができた。
「ああ、眠れるって、こんなに楽だったんだ」と思った。
でも同時に、心のどこかで少しだけ悔しさもあった。
**「薬がないと眠れない」**自分になってしまったことが。
でも、そうでもしないと壊れていた。
眠れなければ、もう心も体ももたなかった。
薬が必要なことを、責めないでいい
今の私は、薬の助けを借りて眠っている。
でも、それは弱さではなく、必要なケアなんだと思う。
眠れないほどの不安や孤独を、「気の持ちよう」でどうにかできるはずがない。
ちゃんと眠ること、ちゃんと休むこと。
それは、生きていくための最低限のケアなんだと、今は思える。
あなたが眠れない夜を過ごしているなら
どうか、自分を責めないで。
眠れないのは、あなたが弱いからじゃない。
ちゃんと眠れないほど、頑張ってきた証なんだ。
「これ以上はひとりで抱えちゃいけない」
そう思えたときが、きっと始まりになる。
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