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【第5章|夫の変化を感じた日 】自分がしてきたことに気づくまで

――「ちゃんと聞いてもらえなかった」――

その言葉は、まるで私の心の声だった。

目次

家庭で交わされなくなった言葉たち

いつからか、私たちの間に会話がなくなっていた。

返事はするけど、感情のない相づちばかり。

本音を話すのを、私はやめていた。

どうせ話しても、聞いてもらえない。

どうせまた、「それは違う」「お前の考えすぎだ」と言われる。

そう思ううちに、私の口は自然と閉ざされていった。

でも彼には、それが「距離を取られている」「時間が経てば、どうせそのうち元に戻る」としか映っていなかった。

同じ頃、彼は会社で“あるトラブル”に直面していた

部下とのやり取りの中で、思わぬ問題が起きた。

「伝え方に問題があったんじゃないか」と上司に指摘され、

彼は初めて部下の話をきちんと聞く場を持った。

そして、そこで部下が語ったのは――

「自分の話を全然聞いてもらえなかったんです」

「最初から決めつけられて、説明しても否定されて」

「傷つきました」

その言葉を聞いて、彼は凍りついたという。

「それ、妻にも言われたことがある気がする…」

部下の言葉を聞きながら、彼の頭には私の顔が浮かんだそうだ。

「話を最後まで聞いてほしかった」

「決めつけられて、私はもう何も言えなくなった」

過去に私が繰り返し伝えようとしてきた言葉が、

部下の口からそっくりそのまま出てきたようだった、と。

そのとき初めて、彼はこう思ったという。

「もしかして、俺は家でも同じことをしていたのかもしれない」

「悪気はなかった」では済まないこと

彼はずっと、「悪気なんてなかった」と言っていた。

私のためを思っていた。

正しいことを言っていただけだった、と。

でも、部下の話を聞いたとき、

「正しさ」は時に人を追い詰めることを、ようやく理解したらしい。

相手の話を途中で遮る。

違うと思えば即座に否定する。

先回りして決めつける。

それがどれだけ無力感を与えるか。

どれだけ傷つけるか。

ようやく彼は、**自分がしてきたことの“結果”**を知ったのだった。

外部の声が、ようやく“届いた”

彼は後になってこう言った。

「外部の人に言われて、やっと気づいた。

 自分のやり方が、相手を追い詰めてたってことに…」

その言葉に、私は正直、胸が痛んだ。

部下の声、上司の指摘――

私以外の誰かの言葉が、彼の心を動かした。

その事実は、たしかに彼を変えるきっかけになった。

でも同時に、それは私の中にある複雑な感情も呼び起こした。

やっと気づいた。でも――私じゃなきゃ、届かなかったの?

会社の人の一言で、ようやく気づいた彼。

私が何年も、何度も、涙ながらに伝えてきたことを、

他人の一言で理解したという現実。

正直、悔しかった。

「やっと分かってくれた」

それは確かに、ほっとする出来事だった。

でも――

「じゃあ、私の7年間は何だったの?」

この問いが、胸に重くのしかかった。

私が伝えようとしてきたことは、ずっと無視されていた

怒らないように、責めないように。

泣きながらも、言葉を選んできた。

彼が受け入れられるように、何度も言い方を変えてきた。

それでも「考えすぎ」「そんなつもりじゃない」と切り捨てられ続けてきた。

何年も。

何十回も。

何百回も。

それなのに、他人が一度口にしただけで届くの?

私が積み重ねてきた“努力”や“苦しみ”は、

まるで意味がなかったみたいに、あっさりと追い越されていく。

それが、悔しくてたまらなかった。

わかってほしかったのは、ずっと“あなた”だった

私は「気づいてくれること」だけを願っていたんじゃない。

「私の言葉で、あなたの心が動いてほしかった」

「私の痛みに、あなた自身が向き合ってほしかった」

誰かに言われてようやくじゃなく、

私の声を通して気づいてほしかった。

それが叶わなかったことが、

何よりも私を悲しくさせた。

それでも、今ようやく“始まった”という気持ちもある

矛盾しているけど、

それでも「気づいてくれてよかった」とも思う。

どんなきっかけであれ、

彼が“自分のしてきたこと”に目を向けたのなら、

そこからやっと、何かが変わるかもしれないから。

そして、こうも思う。

外部の声だからこそ、届くこともある。

身内だからこそ見えなくなっていたことも、

他人の声なら響くこともあるのだと――

それを認めるのは悔しいけれど、事実だった。

あのとき届かなかった私の声も、

 ちゃんと、そこに存在していた

誰かの言葉で気づいたとしても、

その土台には、きっと私の“何年もの声”があった。

今はそう、信じたい。

無駄だったんじゃない。

私の声は、あなたの無意識に何かを残していたはずだから。

届くのに7年かかっただけ。

そう思うしか、救われなかった。

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